生きるリアルさの回復のために

読むことで自分の未来を拓く

講演依頼のためのノート2

松村昌子さま

 

あなたを先生と電話でお呼びした時、とんでもないと強く否定されたのを最初は謙遜と受け取っておりました。しかしそれは謙遜などではなく本当に自分には相応しくないと懇願したものだと、作品「姫ヶ生水」を読み通してから、その奇跡のような成果に通じた思いだと理解するようになりました。作家先生ではなし得ない、純粋な血の通った名も無い民の物語だと納得させられたからです。それでは何とお呼びしたらいいのでしょう。来たる3月17日の講演会で進行を務めさせていただく私としましては、それを先ず決める必要がありそうです。そうですね、親しみを込めて松村さんと呼ばせて下さい。

金沢の市民文学賞を受けられて作品が文学であるのはもちろんなのですが、芥川賞直木賞で馴染みの文学とは同じ土台にはのらないと私には感じられました。そもそも文学の問題には関心がなく、ただ子育てに専念する母親の生きた人生の姿はアマチュアの文体でこそ描けるのだし、文学のプロではなく生き方のプロと誇れるものだと思いました。私たちの読書会メンバーの中には、立派な松子の賢明な判断は読者に考えるスキを与えないから、感心してすらすら読み進んでしまうと感想を述べた方がいましたが、それも文学には関心がなかったからかも知れません。

 

さて、演題については松村さんにお任せいたしますが、例年行なっております野々市市民向けの案内には、こちらで考えたキャッチコピーを付けさせていただきたいと思います。それは、我々の地元が奥深い歴史を積み重ねてきていることを思い起こすための枕詞です。 「郷土の泉から小説が湧いてくる、『姫ヶ生水』が蘇る」というものです。小説だからこそ、生き生きと私たちの共同の過去が蘇ることを表現させていただきました。

当日は作品を読んだ読書会メンバーを中心に、野々市市民の皆さまと共に、小説の面白さと読者の感想を交えて有意義なひと時となるよう、作者と読者のライブトークを楽しみましょう。